2013年1月19日土曜日

オススメ 『オリーブの林をぬけて』


『オリーブの林をぬけて』

監督:アッバス・キアロスタミ/イラン
製作:1994年

オススメ度:★★★★

オリーブの林をぬけて [DVD]

いわゆる『ジグザク道三部作』(『友だちのうちはどこ?』『そして人生はつづく』)の完結編。

『友だちのうちはどこ?』の舞台となった村は、1990年のイラン大地震によって壊滅的な被害を受けた。
映画に出演した子どもたちの安否を尋ねに行ったキアロスタミ監督が、その時の経験をもとに撮った映画が『そして人生はつづく』。
『そして人生はつづく』にあった「震災の翌日に結婚式をあげた新婚夫婦」のシークエンスをきっかけに生まれたのが、『オリーブの林をぬけて』。
『オリーブの林をぬけて』の主演の男女は実際に、男性(ホセイン)が女性(タヘル)に求婚して断られた関係。この映画は、その関係性をもった二人が役者として、新婚夫婦の役を演じている撮影現場の物語。

役者と役柄が何重にも入れ子構造になっており、物語が進むにつれ現実と虚構の境は突破され、曖昧になっていく。

短いレビューなどを見ると「みずみずしいラブストーリー」などと評されることもあるこの映画だけど、「本当にそう見えるの?」と思わずにいられない。

もちろんラブロマンス、あるいはラブコメディーとして見ても構わないとは思うけど、ホセインとタヘルの二人によって描かれているのは、非常に厳しい世界観のように思える。無常観というか、神ならぬ身の人間という存在の悲しみがひしひしと押し寄せてくる。

作中のホセインは、ひたすらにタヘルに求婚する。撮影の合間、取り直しのカットとカットの間のほんのわずかな瞬間に、自らの思いをタヘルにぶつけるが、タヘルは一切答えない。
「返事をしてくれ」
タヘルの言葉が発せられるのは、「アクション」撮影がはじまり、役柄の新婚夫婦としてのセリフだけ。

問えども答えはない。

この映画では、この関係性が随所で繰り返される。

わずかなエピソードをエンターテイメントとして仕上げた手腕も見事。そして何よりも観客にテーマを染みこませる物語の力に感嘆せずにはいられない作品だ。

そして、映画が進むにつれ何かに取り憑かれたかのようになっていくホセインの姿に、キアロスタミは鬼だと思わずにはいられない。

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